





障害年金受給者の親亡き後問題|元気なうちから始めたい備えと生活設計
【親亡き後の問題は、親が高齢になってから考えるものではありません】
「親亡き後の問題」という言葉を聞くと、親御様が高齢になってから、終活の一環として考えるもの、あるいは何か特別な事情が生じたときに初めて向き合うもの、という印象を持たれる方もいらっしゃいます。
しかし私は、この問題は決してその時期になってから急いで考えるものではなく、親御様が元気なうちから、時間をかけて少しずつ取り組んでいくべきものだと考えています。
なぜなら、障害のあるお子様が将来にわたって安心して暮らしていくためには、ひとつの制度やひとつの手続きだけで完結するものではないからです。生活の場、金銭管理、日常生活の支援、周囲との関わり、緊急時の備えなど、考えるべきことは多方面にわたります。そして、そのどれもが相互に関わり合っているため、短期間で一気に整えることはなかなか難しいのです。
また、親御様としても、頭では必要性を分かっていても、「まだ元気だから大丈夫」「今は目の前の生活で精一杯」「考え始めると不安が大きくなる」と感じ、なかなか着手できないこともあると思います。そのお気持ちはとても自然なものです。だからこそ、最初から完璧な計画を立てようとする必要はありません。まずは現状を整理し、今後考えていくべきことを少しずつ見える化していくことが大切だと思います。
【生活設計では、身の回りのこと・お金・住まいなど幅広い視点が必要です】
親亡き後の備えというと、相続や財産管理だけをイメージされることもありますが、実際にはそれだけではありません。むしろ日々の暮らしを具体的にどう維持していくのか、という視点がとても重要です。
たとえば、食事や服薬、通院、掃除や洗濯、買い物、行政手続きなど、日常生活の中にはさまざまな管理項目があります。今は親御様が自然に担っていることでも、将来的には誰が、どのように、どの程度支えていくのかを考える必要があります。
さらに、お金の管理も重要なテーマです。障害年金を受給している場合、その年金は生活を支える大切な基盤のひとつになりますが、それだけで十分とは限りません。家賃、光熱費、食費、通信費、医療費、福祉サービス利用時の自己負担など、継続的にかかる費用を踏まえて、どのような生活設計が現実的なのかを見ていく必要があります。
住まいについても同様です。今後も実家で暮らし続けるのか、将来的にはグループホーム等の利用を視野に入れるのか、あるいは別の形の住まい方が可能なのか。住まいは生活の土台ですので、ご本人の特性や希望だけでなく、支援体制との相性も踏まえて考えることが大切です。
そして忘れてはならないのが、これらのプランは一度決めたら終わりではないということです。生活状況は変わっていきますし、社会情勢や制度も変わります。親御様の体力や年齢も変化していきますし、ご本人の状態やできることも変わることがあります。当初は非常によく考えられたプランであっても、年月の経過とともに見直しや修正が必要になることは珍しくありません。
だからこそ、「完璧な答えを一度でつくること」を目指すのではなく、「今の段階での最善を考え、必要に応じて更新していく」という姿勢が大切なのです。
【自立した生活は、一人暮らしか実家暮らしかの二択ではありません】
また、親亡き後の問題を考えるときには、「自立した生活」という視点も欠かせません。ただ、この“自立”という言葉が、ときにご家族を必要以上に不安にさせてしまうことがあります。
「自立」と聞くと、すぐに一人暮らしを連想される方も少なくありません。しかし、自立した生活とは、何もすべてを一人で完璧にこなすことではありません。必要な支援を受けながらでも、その方らしく安定して暮らしていけるのであれば、それも十分に自立した生活の形だと私は考えています。
実家暮らしか一人暮らしか、という二択で考えてしまうと、どうしても発想が極端になり、不安も大きくなりがちです。しかし実際には、その間には多くの段階があります。
たとえば、まずは実家の中で、自分の身の回りのことを少しずつ自分で行う練習をする。金銭のやり取りを一部任せてみる。決まった予定を自分で管理する習慣をつける。外出や買い物の経験を重ねる。こうした積み重ねも立派な準備です。
さらに、日中活動の場や福祉サービスを活用しながら、家庭以外の場所で過ごす時間を増やしていくこともあります。場合によっては、グループホームと実家を行き来しながら少しずつ環境に慣れていくこともできるでしょう。このように、細かく見ていけば、自立した生活に向けたステップは5つにも6つにも分けて考えることができます。
大切なのは、ご本人に合ったペースで進めることです。周囲と比べて早いか遅いかではなく、その方にとって無理のない形で少しずつ経験を重ねていくことが、将来の安定につながります。
【少しずつ慣れていく過程が、将来の安心につながります】
この「少しずつ慣れていく」という過程は、ご本人にとっても親御様にとっても非常に大切です。
環境の変化は、障害の特性によっては大きな負担になることがあります。急に住まいが変わる、支援する人が変わる、生活リズムが変わるといったことは、表面的には小さな変化に見えても、ご本人にとっては大きなストレスとなることがあります。
そのため、親御様が元気なうちから、少しずつ新しい環境や役割に慣れていく経験をしておくことは、とても意味があります。ご本人が「これならできる」「こういうときはこの人に相談すればよい」と分かることは、大きな安心材料になります。また、親御様にとっても、「親がすべてを担わなくても大丈夫な部分」が見えてくることで、不安が少しずつ和らいでいくことがあります。
将来への不安を完全になくすことは難しいかもしれません。しかし、不安を小さくしていくことはできます。そしてそのためには、机上の計画だけでなく、実際の生活の中で経験を重ねることがとても重要なのです。
【お子様だけでなく、親御様ご自身のことも大切に考える必要があります】
親亡き後の問題というと、どうしてもお子様の将来に焦点が当たりやすいのですが、私はそれと同じくらい、親御様ご自身のことも大切に考える必要があると強く感じています。
親御様は、お子様のためには本当によく考え、よく動き、よく支えておられます。その責任感や愛情の深さには頭が下がる思いです。一方で、ご自身のことについては、つい後回しになってしまうことも少なくありません。
実際にご相談を受けるなかでも、「お子様のことは考えているけれど、自分自身の老後や健康についてはあまり整理できていない」「自分が倒れたときのことまで考える余裕がない」といったケースは少なくありません。けれども、障害のあるお子様にとって、親御様が元気で、できるだけ長く健やかにいてくださることは、とても大きな意味を持ちます。
だからこそ、親御様ご自身が無理をしすぎず、心身の健康を守りながら、ご自身の人生や老後についてもきちんと考えていくことが大切です。セルフケアは決してわがままではなく、結果としてお子様の安心にもつながるものです。
【家族で将来を話し合うことが、親亡き後の備えにつながります】
親御様にも当然、老後があります。体力や気力、経済状況、家族の関係性も少しずつ変化していきます。そのなかで、お子様の将来だけを考えるのではなく、親御様ご自身がこれからどのように暮らし、どのような人生を送りたいのかにも目を向ける必要があります。
これは、障害のあるなしに関わらず、誰にとっても大切なテーマです。自分はこれからどのように生きていきたいのか。どのような暮らしを望むのか。家族の中でどのように支え合っていきたいのか。そうしたことを、じっくり考え、必要に応じて家族とも話し合っていくことが、結果として親亡き後の備えにもつながっていきます。
話し合いというと、重たいもの、難しいものと感じるかもしれません。しかし、最初からすべてを決める必要はありません。今困っていることは何か、将来不安に感じていることは何か、どんな暮らしを望んでいるか、誰にどのような支援をお願いできそうか。そうしたことを少しずつ言葉にしていくだけでも、大きな前進です。
【元気な今だからこそ、できることから始めることが大切です】
親亡き後の問題は、何か特別な時期になってから一気に片づけるものではありません。親御様が元気なうちから、日々の暮らしの中で少しずつ備え、必要に応じて見直しを重ねていくものです。
そしてその備えは、お子様のためだけのものでもありません。親御様ご自身が安心して歳を重ねていくための備えでもあります。
だからこそ、早いうちから、無理のない形で、できることから始めていくことが大切です。将来に向けた話し合いも、生活の練習も、制度の確認も、支援先とのつながりづくりも、どれも「まだ早い」のではなく、「元気な今だからこそできること」なのだと思います。
親亡き後の問題に、たったひとつの正解はありません。ご家庭ごとに事情は異なり、ご本人に合う形も異なります。だからこそ、大切なのは一般論に当てはめることではなく、そのご家庭に合った形を少しずつ見つけていくことです。
焦らず、けれど先送りしすぎず、今できることから一歩ずつ。そうした積み重ねが、ご本人の安心にも、親御様の安心にもつながっていくのではないかと思います。
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士 石井 要美
2026/04/24
- 障害年金社労士ブログ

