





初診日の証明ができないかもしれない方へ|障害年金請求であきらめる前に確認したいこと
障害年金のご相談を受けていると、「もう何年も前のことなので、初診日がわかりません」「最初に行った病院がなくなってしまいました」「昔のことを思い出せず、手続きが進みません」というお話を伺うことがあります。
障害年金の手続きでは、「初診日」がとても重要です。
初診日とは、その障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日のことをいいます。
この初診日がいつなのかによって、どの年金制度で請求するのか、保険料の納付要件を満たしているのか、障害認定日がいつになるのかなどが決まります。
そのため、障害年金では「現在どれくらい症状が重いか」だけではなく、「いつ、どこの病院を最初に受診したのか」という点も、とても大切になります。
しかし、病気やけがから長い年月が経っている場合、この初診日の証明が大きな壁になることがあります。
今回は、私が実際に経験した、20年前の初診日を証明して障害年金の受給決定につながった事例をもとに、初診日の証明が難しい場合に大切な考え方についてお伝えします。
【初診日の証明が難しくなる理由】
障害年金のご相談では、初診日が数年前、場合によっては10年以上前というケースも少なくありません。
特に精神疾患の場合、最初は「少し疲れているだけ」「仕事のストレスかもしれない」「眠れないから薬をもらうだけ」と考えて受診していることも多く、ご本人が当時のことをはっきり覚えていないことがあります。
また、症状が悪い時期には記憶が曖昧になっていたり、病気の自覚が十分でなかったりすることもあります。
さらに、長い年月の間に、病院が閉院していたり、統廃合されていたり、カルテの保存期間が過ぎてしまっていたりすることもあります。
障害年金の手続きに取りかかろうとしても、最初の病院がわからない、わかっても証明書が取れないとなると、そこで手続きが止まってしまう方も少なくありません。
「初診日の証明ができないなら、もう障害年金は無理なのではないか」
そのように感じてしまう方もいらっしゃいます。
けれども、そこであきらめる前に、確認できることはまだあります。
【20年前の初診日を証明した事例】
私が経験した事例の中に、20年前の初診日を証明して、障害年金の受給決定につながったケースがあります。
ご相談者様は社会人になって間もないころ、仕事のストレスからうつ病を発症されました。
その後は、服薬をしながら仕事を続けていましたが、症状が重くなると退職し、少し回復するとまた別の職場でパート勤務をする。
そのようなことを繰り返しながら、長い間、なんとか病気と付き合ってこられた方でした。
一見すると、働いている時期もありました。
けれども、安定して働き続けることは難しく、体調が崩れるたびに生活も経済面も不安定になっていました。
【ご本人の記憶が曖昧で、手続きが進まない状態】
ご本人は、長い間病気と付き合ってこられましたが、障害年金の対象になるという自覚はあまりありませんでした。
主治医から障害年金の手続きを勧められ、ようやく請求を考えるようになったものの、いざ準備を始めると、必要な情報がなかなか整理できませんでした。
最初に受診した病院がどこだったのか。
いつ頃受診したのか。
どのような症状で受診したのか。
その後、どの病院に移ったのか。
長い年月が経っていることもあり、ご本人の記憶はとても曖昧でした。
これは決して珍しいことではありません。
特に精神疾患の場合、調子の悪い時期のことを細かく覚えていない方も多くいらっしゃいます。
また、当時は障害年金を請求することなど考えていなかったため、病院名や受診時期を記録していないこともあります。
この方も、まさにそのような状態でした。
【受診歴を一つずつたどる作業】
障害年金の手続きでは、現在の診断書だけを整えればよいわけではありません。
初診日を確認するために、過去の受診歴を一つずつたどっていく必要があります。
この方の場合も、まずはご本人の記憶をもとに、これまで受診した可能性のある医療機関を整理していきました。
当時住んでいた場所、勤めていた会社、通院していた時期、薬をもらっていた記憶、家族に話していた内容など、少しずつ手がかりを集めていきます。
ご本人にとっては、思い出すこと自体が負担になる作業でもあります。
そのため、無理に一度ですべてを聞き出すのではなく、確認できることから丁寧に整理していくことが大切です。
その結果、初診と思われる医療機関をなんとか特定することができました。
ところが、その病院はすでに統廃合により、当時の形では存在していませんでした。
【病院がなくなっていても、確認できることがある】
初診の病院がなくなっていると聞くと、多くの方は「もう証明できない」と思ってしまいます。
たしかに、病院が閉院していたり、統廃合されていたりすると、初診日の証明は難しくなります。
しかし、そこで完全にあきらめる必要はありません。
統合先の病院にカルテが引き継がれていることがあります。
また、医療機関の名称が変わっているだけで、実際には別の形で診療情報が残っていることもあります。
この事例でも、統合先の病院に問い合わせを行いました。
すると、幸いなことに、当時のカルテが保管されていることがわかりました。
20年前の受診歴でしたので、カルテが残っているかどうかは大きな分かれ道でした。
結果として、初診日の証明につながる資料を確認することができ、障害年金の請求を進めることができました。
そして、最終的に受給決定につながりました。
【もっと早く請求できていれば、という思い】
このような事例に関わるたびに、私は「もっと早く障害年金につながっていれば」と感じます。
この方は、20年近くにわたり、体調が悪くなるたびに仕事を辞め、少し回復するとまた働き始めるという生活を続けてこられました。
働く意思がないわけではありません。
むしろ、なんとか働こうと努力されてきた方です。
けれども、病気の影響により、安定した就労を続けることが難しかったのです。
障害年金は、働いているかどうかだけで判断される制度ではありません。
病気やけがによって、日常生活や仕事にどのような制限があるのか。
どの程度、継続的な支援や配慮が必要なのか。
そうした生活の実態が大切になります。
もし、もっと早い段階で障害年金の可能性に気づいていれば、経済的な不安を少しでも軽くできたかもしれません。
治療や生活を整えるための選択肢も、もう少し広がっていたかもしれません。
その意味では、受給決定につながったことにほっとした一方で、早く情報が届くことの大切さも改めて感じた事例でした。
【障害年金を知らないまま過ごしている方もいます】
障害年金という制度は、まだまだ十分に知られているとはいえません。
老齢年金や遺族年金については知っていても、病気やけがで生活や仕事が制限されたときに受け取れる年金があることを知らない方は多くいらっしゃいます。
特に、精神疾患、がん、難病、脳血管疾患、肢体障害、内部疾患などの場合、「自分が障害年金の対象になるとは思っていなかった」とおっしゃる方も少なくありません。
また、障害年金という言葉から、重い障害がある方だけの制度だと思い込んでいる方もいます。
けれども実際には、病名だけではなく、生活や仕事への影響を見て判断されます。
そのため、「自分は働いている時期があるから無理」「症状に波があるから無理」「何年も前からの病気だから無理」と、最初から決めつけてしまうのはとてももったいないことです。
【専門家に相談する意味】
初診日が古いケース、受診歴が複雑なケース、病院がなくなっているケース、転院を繰り返しているケースでは、書類の準備や証明の方法が難しくなることがあります。
そのような場合、障害年金に詳しい社会保険労務士に相談することで、整理の仕方や確認すべきポイントが見えてくることがあります。
今回のように、受診歴をたどり、医療機関に確認し、どの資料が初診日の証明につながるのかを検討していく作業は、慣れていない方にとって大きな負担です。
特に、体調が不安定な中で過去のことを思い出し、病院に問い合わせ、年金事務所に確認し、書類を整えることは、想像以上にエネルギーを使います。
専門家の役割は、単に書類を作ることだけではありません。
ご本人のこれまでの経過を整理し、必要な証明を探し、生活の実態がきちんと伝わるように整えていくことも大切な役割です。
【初診日の証明が難しくても、すぐにあきらめないでください】
初診日が古い。
最初の病院がなくなっている。
記憶が曖昧で、受診歴が整理できない。
このような事情があると、障害年金の請求は難しく感じられると思います。
けれども、難しいことと、絶対にできないことは違います。
過去の資料が残っていることもあります。
統合先の病院にカルテが引き継がれていることもあります。
別の医療機関の記録から、当時の受診状況が確認できることもあります。
大切なのは、「どうせ無理だ」と一人で判断してしまわないことです。
【病気やけがで生活に不便があるなら、早めの相談を】
障害年金は、今の生活を支えるための大切な制度です。
病気やけがによって、働き方が制限されている。
日常生活に支障がある。
家族の支えがなければ生活が成り立ちにくい。
収入が不安定で、将来が不安。
このような状況がある方は、障害年金の対象になる可能性があります。
もちろん、すべての方が受給できるわけではありません。
初診日、保険料納付要件、障害の状態など、確認すべきことはあります。
それでも、可能性があるかどうかを知るだけでも、次の一歩が変わることがあります。
今回の事例のように、20年前の初診日であっても、丁寧にたどることで受給につながることがあります。
病気やけがで生活や仕事に不便を感じている方は、早めに相談してみてください。
障害年金は、特別な誰かだけの制度ではありません。
必要な方に、必要な支援が届くこと。
そのために、まずは「自分も対象かもしれない」と知ることが大切です。
【こちらのページも参考に】https://syougainenkin.com/lp/01/
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
石井 要美
2026/05/20
- 障害年金社労士ブログ

