





特別支援学校卒業後に働く子の障害年金|お母様の努力を医師が受け止めた日
【特別支援学校卒業後に働く子の障害年金|お母様の努力を医師が受け止めた日】
障害年金のご相談を受けていると、手続きそのものだけでなく、ご本人やご家族がこれまで歩んでこられた時間に触れさせていただくことがあります。
特に、知的障害のあるお子様を育ててこられた親御様のお話を伺うと、その長い年月の中に、どれほどの工夫や心配、葛藤、そして愛情があったのかを感じることが少なくありません。
今回は、特別支援学校を卒業後、障害者雇用で働いている20代の方の障害年金手続きで、診断書の依頼時に医療機関へ同行させていただいたときのエピソードをご紹介します。
ご本人は軽度知的障害のある方でした。
一見すると、「特別支援学校を卒業して働いているなら、障害年金は難しいのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、障害年金は、働いているかどうかだけで判断されるものではありません。
どのような支援や配慮のもとで働いているのか。
日常生活ではどのような困りごとがあるのか。
ご家族の支援がどの程度必要なのか。
そうした生活全体の状況を丁寧に見ていく必要があります。
【働いているから障害年金は難しい、とは限りません】
知的障害のある方の障害年金では、「働いている」という事実だけで、すぐに対象外になるわけではありません。
特に、障害者雇用で働いている場合には、職場でどのような配慮を受けているのか、どのような業務内容なのか等、継続して働くうえでどのような支援が必要なのか、といった点が大切になります。
たとえば、業務内容が限定されていたり、周囲の方が何度も声かけをしてくださっていたりすることもあります。
また、給料を受け取っていても、金銭管理をご本人だけで行うことが難しく、ご家族が確認しているケースもあります。
このように、表面的には「働いている」「できている」と見えても、その背景には多くの支援があることがあります。
障害年金の手続きでは、その見えにくい支援や困りごとを、丁寧に整理して伝えることがとても重要です。
【医療機関につながっておらず、手続きをあきらめていました】
この方は、障害年金の手続きを考えたことはあったものの、医療機関につながっていませんでした。
そのため、「障害年金用の診断書を依頼できる医療機関がない」と思い込み、手続きをあきらめていたそうです。
知的障害のある方の場合、幼少期には療育相談や教育機関、福祉サービスとつながっていても、成人後に定期的な医療機関の受診がないことがあります。
身体の病気のように、継続的に通院しているとは限りません。
そのため、障害年金の請求を考えたときに、
「どこの病院に行けばよいのかわからない」
「診断書を書いてくれる先生がいない」
「今さら受診してもよいのだろうか」
と悩まれるご家族は少なくありません。
この方も、まさにそのような状況でした。
その後、福祉関係者の方を通じて当職につながり、ご相談をお受けすることになりました。
【お母様の長年の努力が、お話の中から伝わってきました】
初回相談でお話を伺うと、ご本人が幼少期から療育相談を利用しながら、少しずつ成長してこられたことがわかりました。
そして、その背景には、お母様の長年の努力がありました。
時間がかかっても、できることが少しずつ増えるように教えてこられたこと。
一度でできなくても、何度も根気強く伝えてこられたこと。
失敗しても、すぐに責めるのではなく、どうすればできるようになるかを一緒に考えてこられたこと。
学校生活、進路、就労、日常生活。
その一つひとつの場面で、お母様は悩みながらも、ご本人に合う方法を探し続けてこられたのだと思います。
軽度知的障害の場合、外から見ると困りごとがわかりにくいことがあります。
会話がある程度できる。
働いている。
身の回りのことも一部できている。
そう見えると、周囲からは「そこまで大変ではないのでは」と受け取られてしまうこともあります。
しかし、実際には、ご家族の見えない支えがあって成り立っている生活があります。
そうした支援が日常的に必要であっても、それは外からは見えにくいものです。
お母様のお話を伺う中で、これまでどれほどの思いで支えてこられたのかが伝わってきました。
【診断書依頼に同行することになりました】
障害年金の請求では、診断書がとても重要です。
そのため、医師に対して、これまでの経過や現在の生活状況を適切に伝えることが大切になります。
ただ、ご本人やご家族だけで診察室に入り、限られた時間の中で必要なことをすべて伝えるのは、簡単なことではありません。
特に、幼少期から現在までの長い経過を整理して話す必要がある場合には、
「何を話せばよいのかわからない」
「先生にどう伝えればよいのかわからない」
「大切なことを言い忘れてしまいそう」
という不安が出てくることがあります。
今回も、お母様にはそのようなご不安がありました。
そこで、ご本人、お母様、医師の承諾をいただいたうえで、診断書依頼の診察に同行させていただくことになりました。
同行する目的は、医師に何か特別な判断を求めることではありません。
ご本人やご家族の生活状況が、できるだけ正確に医師へ伝わるように、必要な情報を整理するためです。
【診察室で、医師は丁寧に話を聞いてくださいました】
診察室では、医師がこれまでの経過を丁寧に確認してくださいました。
まずはご本人に対して、学校生活のこと、現在の仕事のこと、日常生活のことなどを、無理のない形で聞き取ってくださいました。
ご本人が答えられることは、ご本人の言葉で。
言葉に詰まるところや、説明が難しいところは、お母様が補足されました。
医師は、お母様からも、幼少期からの経過や、日常生活で必要な支援、就労上の困りごとなどを丁寧に聞き取ってくださいました。
その場で印象的だったのは、医師が単に診断書を書くための項目だけを確認していたのではないということです。
これまでどのように過ごしてこられたのか。
どのような工夫をしてきたのか。
どのような支援があって今の生活が成り立っているのか。
その背景まで受け止めるように、静かに、丁寧に聞いてくださっていました。
障害年金の診断書では、ご本人の状態を正確に伝えることが大切です。
しかし、その前提として、ご本人やご家族が安心して話せることも、とても大切なのだと改めて感じました。
【医師がお母様の努力を受け止めてくれました】
一通りお話を聞かれたあと、医師がお母様に言葉をかけました。
これまで本当に頑張ってこられましたね。
お母様は、その言葉を聞いた瞬間、今まで堪えていたものがふっとほどけたように、涙を流されました。
その姿を見て、私も胸がいっぱいになりました。
お母様は、これまで泣き言を言わずに頑張ってこられたのだと思います。
お子様のために、できることを一つずつ増やそうとしてこられた。
学校や福祉、就労先と関わりながら、その時々で必要なことを考えてこられた。
周囲からは見えにくい大変さを、ずっと抱えてこられた。
それでも、親だから当然だと思って、踏ん張ってこられたのかもしれません。
障害のあるお子様を育てる親御様は、その努力や苦労を一人で背負っていることが少なくありません。
日々の支援は、家庭の中では当たり前のように続いていきます。
しかし、その頑張りを誰かに褒められたり、労われたりする機会は、決して多くないように感じます。
だからこそ、医師のその一言は、お母様の心に深く届いたのだと思います。
【親御様の支えは、診断書にも大切な情報です】
障害年金の手続きでは、ご本人の状態だけでなく、ご家族がどのように支えているかも大切な情報になります。
なぜなら、ご本人が一見できているように見えることでも、実際にはご家族の声かけや見守り、確認があって成り立っていることがあるからです。
たとえ職場で働き続けていても、困ったときに自分で相談できず、ご家族や支援者が間に入っているかもしれません。
こうした支援は、普段の生活の中では「いつものこと」になっているため、ご家族自身も重要な情報だと気づいていないことがあります。
しかし、障害年金では、その「いつもの支援」がとても大切です。
どのような支えがあって、今の生活や就労が成り立っているのか。
それを丁寧に整理することで、ご本人の障害状態がより正確に伝わります。
【軽度知的障害だからこそ、伝え方が大切です】
軽度知的障害の方は、外から見るとある程度できているように見えるため、困難さが見過ごされやすい面があります。
本人も、周囲に合わせようとして頑張ります。
できないことを隠そうとすることもあります。
わからないことを「わかった」と言ってしまうこともあります。
困っていても、自分から助けを求められないこともあります。
その結果、周囲からは「できている」と見られてしまい、本当は必要な支援が届きにくくなることがあります。
だからこそ、障害年金の手続きでは、表面的なことだけではなく、その裏側にある支援や困難さを丁寧に伝えることが大切です。
障害者雇用で働いている場合も同じです。
働いているという事実だけで判断するのではなく、継続の難しさなどを見ていく必要があります。
【お母様の涙が教えてくれたこと】
今回の診察同行で、私が強く感じたことがあります。
それは、障害年金の手続きは、単に年金を受けるための書類作成ではないということです。
診断書の内容も、病歴・就労状況等申立書の内容も、審査において大切です。
しかし、その書類の背景には、ご本人のこれまでの人生があります。
そして、ご家族が支えてこられた時間があります。
お母様の涙は、これまでの苦労を誰かにわかってもらえた安心の涙だったのかもしれません。
ずっと張りつめていた気持ちが、少しだけゆるんだ涙だったのかもしれません。
「頑張ってきたことを、わかってもらえた」
そう感じられた瞬間だったのではないかと思います。
私は、その場に同席させていただきながら、親御様の努力をきちんと受け止めることの大切さを改めて学ばせていただきました。
障害年金の支援では、ご本人の状態を正確に整理することが必要です。
それと同時に、ご家族がどれほど支えてこられたのかにも目を向ける必要があります。
【医療機関につながっていない方も、あきらめないでください】
知的障害のある方の障害年金で、医療機関につながっていないことを理由に手続きをあきらめている方は少なくありません。
「診断書を書いてくれる病院がない」
「成人してから病院に行っていない」
「療育手帳はあるけれど、どう進めればよいかわからない」
そのような理由で、請求を止めてしまっている方もいらっしゃると思います。
しかし、状況によっては、これから医療機関につながり、診断書を取得して請求を進められる可能性があります。
もちろん、すべてのケースで同じように進められるわけではありません。
これまでの学校生活、福祉サービスの利用状況、就労の状況、ご家族の支援状況など、確認すべきことは多くあります。
だからこそ、最初から「無理だ」と決めつけず、一度状況を整理してみることが大切です。
軽度知的障害であっても、特別支援学校を卒業して障害者雇用で働いていても、障害年金を検討できる場合があります。
大切なのは、今の生活や就労の実態を丁寧に見ていくことです。
【特別支援学校卒業後に働くお子様を支えてきた親御様へ】
特別支援学校を卒業し、障害者雇用で働くお子様を支えてこられた親御様の中には、長い間、誰にも十分に労われることなく頑張ってこられた方が多いのではないかと思います。
できることを増やすために、何度も教えてきた。
失敗しないように、先回りして準備してきた。
将来のことを考えるたびに、不安になりながらも、目の前の生活を支えてきた。
その一つひとつは、外からは見えにくいかもしれません。
けれど、それは確かに大きな支えです。
障害年金の手続きでは、その支えの存在を丁寧に整理することが、ご本人の状態を正しく伝えることにつながります。
そして、親御様がこれまで頑張ってこられたことも、決して小さなことではありません。
診断書を依頼することが不安な方。
医療機関につながっておらず、どこから始めればよいかわからない方。
軽度知的障害や障害者雇用という状況で、障害年金の対象になるのか迷っている方。
どうか、一人で抱え込まずにご相談ください。
ご本人とご家族がこれまで積み重ねてこられたことを丁寧に整理しながら、必要な制度につながる道を一緒に考えていきたいと思います。
【こちらのページも参考に】https://syougainenkin.com/lp/01/
社会保険労務士/CFP・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
石井 要美
2026/07/23
- 障害年金社労士ブログ

